ごはんの種は蜜の味

二進も三進もいかないアラサーなオタク女の日々

筆を折る決意をした人へ〜漫画家とは?〜

ツイッターをしていて、このような記事を発見した。

www.ultrac2017.com

 

この元漫画家志望の女性は24歳ながら、多くの気づきを経た上で、挫折を糧にしているし、そうしていこうと決めている。なかなかできるものではない。

生来、真面目な人なのだろう。

ただ、彼女よりもずっと年長で同性の管理人からすれば、潔癖が過ぎる印象を受けた。潔過ぎる。
天晴れと言ってやりたい気持ちと、今は冷却期間と考えればよいのでは、と思う気持ちがある。

 

 

そもそも彼女がなりたかったのは『漫画家』だったのか。
それとも『漫画で誰かの役に立つ人』だったのか。

 

同人活動も、ただただ自分の好きなものを描く建前ではあるが「私と同じことを思っている(=同じ萌えを抱いている)誰かに届いて欲しい」と言う気持ちは存在しているものだ。
しかし、純粋に「同人作家」に憧れただけで、そこから前進しない層も存在している。それはただ「同人作家になりかった」だけであり「同じ思いを誰かと共有したい」から同人をやっているとは言いがたい。

 

様々な葛藤を経た上で、筆を折った彼女には申し訳ないが、文面を読む限りでは、彼女は「漫画家になりたかった」人であり「漫画で誰かに何かを与えたい」から漫画家を目指したようには見受けられない。

別に感動を与えたい!とかでなくてもいい。純粋に「お金が欲しいから」漫画家になりたいと言うなら、それはそれでマーケティングに則り、自分の描きたいものよりもウケているもの、さらにはその先に流行るものを見越して描く職業作家の方向に進めばいい。
ある意味、読者(=需要)のことを第一に考えているタイプとも言えるし、出版社からすればハズレが少ないため、安定して収益を見込める存在として重宝する。

 

職業としての漫画家は、表現者でありながら、事業主である。

事業主である以上は、出版社は取引先の企業だ。となれば、出版社にとって利益を得ることができる存在にならなければ、その出版社からプロとしてデビューは困難になる。

ネームを殆ど通さなかった二代目の担当者は、出版社の収益面を無視しないシビアな人材だったと言う見方もできる。ネームはビジネスの世界における企画書であり、それを見せることはプレゼンだ。そして出版社にとって利益がないと判断されれば、プレゼンは通らない。

 

だが、なかなか漫画家と言う職業を、出版社を通して商業ラインに乗せる以上は『事業』であり利益を追求するものと、割り切るまでにいかなくとも頭の隅に入れておくのは、十代〜二十代で、漫画家に夢を持っている人ほど難しい。

「漫画家は夢を与える仕事」と思っていればいるほど、現実世界のビジネスの概念から程遠い存在となり、さらに(世間一般で言う)漫画家になるための登竜門が「出版社から商業ラインに乗る」ぐらいしかないと思われている現状が、そのイメージを固定化させている。

24歳の彼女に、そこまで完全に割り切れと言ってしまうのは酷だが(完璧に割り切る人間だけが漫画家になれるなんて、それはそれでね、寂しいからね)、漫画をビジネスにする以上はそうした側面も確実に存在する、と頭の隅にあれば、もしかしたら歯車が上手く噛み合うことがあったかもしれない。

 

 

 

ちなみに管理人は過去の記事通り、近畿地方の某芸術大学の卒業生だ。

 

naranomi.hateblo.jp

 

母校には漫画家を養成するコースが存在し、管理人は専攻の関係上、彼らと同じ講義を取ることが多かった。

だがそれでも、少なくとも在学中にデビューした人の話は聞かなかった。

 

しかしそれは「個人で」の話だ。

興味深いことに、「職業漫画家」を正社員として雇用する企業を恩師と共に立ち上げた後輩達がいた。
彼らは漫画家を志して入学した。だが、どこかの出版社に投稿してデビューする道ではなく、起業を選んだ。
彼らは基本的に個人名で仕事はしない。作成した著作物は自社の共有物と考えている。もちろん、個性を潰すのではなく、適性をみた上で個々に仕事を振っている。完全分業制だ。

いわゆる「漫画家になりたい!」と思っている人には、信じがたい業務形態であることは否めない。

だが元々彼らは「収入が安定しない漫画家が、安定して漫画で食べていくための手段」として、このビジネスを始めたのだ。出版社からデビューするだけが道ではない、もっと安定して、漫画を描くことで生活していくことはできないか、と模索した結果だ。

 

視野を広く持つ、とはこういうことだと思っている。

漫画を描く、表現力を広げるために視野を広く、ではなく、職業としての漫画家として生きていくことを考えた時、そのあり方さえも変える発想が必要なのかもしれない。

 

件の彼女は、もう24歳と思っている節があるが、正直言ってまだ若い。
母校には24歳でも学生をしている人は多くいたし、一度社会経験を積んでから再入学した人もいる。

仕事は生きる手段の一つに過ぎない。
また漫画を描きたい!と言う気持ちが甦った時、素直に戻ってくればいい。ただ「漫画家と言う存在になりたかった」だけだったと思ったのなら、それも一つの答えだ。

漫画を描くこと、漫画家になる夢への冷却期間。どうか色んなものに触れる二十代を送って欲しい。人生はまだまだこれからだ!