ごはんの種は蜜の味

二進も三進もいかないアラサーなオタク女の日々

子どもが漫画家になりたいと言い出したら

管理人は漫画家の卵がたくさんいる環境=芸術大学で、四年間勉学に励んでいた。

そんな管理人の周辺は、さすがに芸大進学を決めた以上は家族からも(少なくとも在学中は)反対を受けていると思しき人はいなかった。

 

「漫画家になりたい!」と子どもが言い出した時、反対する親はそもそも芸大に進学させないのが大半だろう。
特殊な例としては、本人は漫画家になりたいのに親はピアニストになれと言って、結果的に子も親も芸大美大に進学する方向にいる、しかし専攻が違う……と言う事態だろうか。稀なことだと思うけれども。

 

小学校を卒業するくらいまでの間であれば、子どもが「漫画家になりたい!」と言っても「あらそうなの〜!頑張ってね」と応援する親もいるだろう。
だが、中学高校、そして大学へ進学する頃に「漫画家になりたい」と言うと、反対に回る親が多くなる。ましてや「就職しないで専業漫画家になる!」とまで言い出すと、必死で止めたくて止めたくて、進退窮まってネットの知恵袋に相談するのである。

 

かく言う管理人も、小学生を卒業する頃ぐらいまでは漫画家になるのが夢だった。

親も応援していたし、うちの親は子どもへの理解がありすぎるのか信頼しすぎているのか、夢そのものについて反対することはなかった。

だが今、漫画家になりたいと言う気持ちはない。中学ぐらいから、その気持ちはなくなっている。

どうして諦めたのかと言うと、小学生デビューができなかったからである。 

上手な夢のかなえかた 1 (講談社コミックスるんるん)
 
上手な夢のかなえかた 2 (講談社コミックスるんるん)
 

 

これが幼い頃の、管理人のバイブスだった。
『上手な夢のかなえかた』は、イラストが得意な主人公が初めて本格的に描いた漫画でデビューを果たし、様々な出来事を経て、「好きだから描いていけるのだ」と改めて自覚してプロとして生きていくと言う、まさにサクセスストーリーのハッピーエンド。

この主人公(表紙の女の子)の里瀬は、小学五年生
なんと11歳でデビューを果たし、最終回では小学生にしてキャリアで先輩になってしまうのである。

純真無垢な小学生だった管理人は、このサクセスストーリーをなぞって漫画家になりたかったのだ。だが、お察しの通り投稿一つできないまま小学校を卒業してしまった。

 

あまりに早過ぎた挫折(ですらないかも)だったが、本人はこれできっぱり諦めたのだ。

つまりタイムリミットがあったのである。
小学校を卒業するまでに、と言う無茶過ぎる制限時間を自ら課していた。もっともその後、小説を書く方にシフトしていくオチなのだが……。

 

 

漫画家になりたい!

子どもがそう訴え、何とか止めたい親は「じゃあ投稿してみな」とあえて突き放してみて欲しい。

そこで投稿するなら、その時点で見込みがあると思う。なにせ芸大で漫画家養成コースに行ったところで、投稿しない人はしないのだ。
管理人は小説を書いていたが、大学の必修講義の課題小説ですら提出したがらない学生もいたのだ。

それぐらい、実は創作する行為は面倒くさいのである。

 

面倒くさくても、描きたくて、描きたくて、描きたくてたまらない!
そういう子は、その時点で希有な才能を持っている。世の中、絵のうまい人ばかりじゃないかと言うが、ナンバー1にならなければ即転落人生!と言うわけでもない。

親が心配する気持ちは分かる。大企業に就職しなくても、官僚や医者にならなくとも、食べていく分に困らなければ……と、せめてもの気持ちがあるのは当然だ。

だが、実は漫画家も、食べていく方法はそれなりにある。ただ現状、普通に一般企業に入るよりかはハードルが高いのは否めない。だが、いきなり自分の与り知らないところの揉め事に巻き込まれて解雇されて次の就職先がないリスクだって、一般企業に勤めていれば確率的には発生しうることだ。

 

大事なのは職業ではなく、その職業を選ぶ上で「どうすれば生活に困らないか」と言う根本を教えることだ。つまりリスクヘッジの話である。

これはたとえ、安定した大企業に就職しても考える必要がある。景気は少しずつ回復していても、終身雇用制度の崩壊、年功序列による昇進から実力主義への転化、未だはびこる残業による過労問題にありえない転勤辞令、パワハラセクハラマタハラハラスメント乱舞……大企業に勤めても、定年まで安定なんて世界はもはや存在しない。

生き残る人間は、どんな職業に就いたとしても、リスクヘッジを念頭において行動する人間なのだろうと思う。つまり生活基盤を一つに頼らず、副業や不労所得、貯蓄、投資、保険、行政、運、とにかく様々な形でリスクを分散すること、何よりもそれをきちんと調べて勉強することだ。

調べもしないであーだこーだ言っても非生産的な親子喧嘩から脱却できない。

 

漫画一本で食えないなら、アルバイトをすればいいし、普通に就職して空き時間でスケジュールを調整しながら描くことも不可能ではない。やり方次第だ。

また出版社を通さなくとも、漫画を描く行為自体が好きであって、商業ベースに乗せる必要がないなら、同人誌で発表する手もある。
今はネットで無料公開も可能だし、安定して更新ができて、何人かの心の琴線に触れれば、拡散・共有されてヒットするチャンスもある。
実際、今はツイッターやpixivで趣味程度で描いていた創作漫画がバズって、ウェブから商業に進出する人も多い。このルートには兼業作家も多い。元々趣味でやっていて、本業が別にあることが多いからだ。

 

ともかく「漫画家になりたい!」と言い出した時点で、将来の不安から芽を摘むのはちょっとストップして欲しい。
特にまだ学生で、親として子どもを扶養していても生活していける範囲であるなら。

問題なのは「どうすればなれるか」を、子も親も考えずに水掛け論になることだ。

 

ただ漫画家に憧れているだけの子ども。
食べていけないと頭ごなしに反対する親。

 

そこに「職業:漫画家」の実態が存在していない。
言うなれば空想上の生き物について「存在している!」「いや存在していない!」と語り合っているに過ぎない。

 

子どもは、漫画家として食べていくことの意味を学ぶ必要がある。
親は、漫画家になっても食べていく方法を子と共に模索する必要がある。

 

なお、この漫画家と言うのは例の一つであり、サッカーなどのスポーツ選手、映画監督、(今人気の)ユーチューバーなどに置き換えることもできる。
職業として存在している以上、それで食べている人間はいるのだ。ただ、視野が狭いがために「漫画家一本で食べていかなくてはいけない」「でなければ転落人生だ」と子も親も思い込んでいると、不毛な言い争いしか起きない。

 

とにかく、行動する。

行動することでしか道は拓かないものだ。

にも関わらず、行動する前から反対する行為は先回りの過干渉であるし、行動せずになれると妄想しているだけなら本当に夢でしかない。

 

何と言うか、親も効率厨が増えたんだなぁ……と思うこともしばしば。