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二進も三進もいかないアラサーなオタク女の日々

はびこる常識を疑え!『傘寿まり子』感想

『初老』と聞いて、思い浮かべる年齢は何歳だろうか。

50歳? 60歳? 70歳はちょっときついかもしれない。

 

 

初老とは、実は40歳の異称である。
40歳はすでにいのまり。しかし2017年の時点で、日本人の平均寿命は女性が約87歳、男性が約81歳となっている。最高ではない、平均だ。
ちなみに世界で一番長寿の国は香港らしい。日本は第二位だ。

初老(しょろう)の意味 - goo国語辞書

平均寿命、男女とも過去最高更新 女性87.14歳 男性80.98歳 :日本経済新聞

 

間違いなく高齢化社会である。
にも関わらず、言葉の上で、40歳は老化を自覚する年齢として扱われる。
法律上、老人の年齢定義はないが、概ね65歳以上が施策対象となる。

老人(ろうじん)の意味 - goo国語辞書

 

つまり、昔は老いたと感じた年齢は、現代においてはまだまだ若いのだ。
医療技術の向上もあるし、社会環境が改善されたことも要因だろう。

 

だが一方で、老人と聞くと、緩やかで穏やかな日々を過ごすもの、と認識している人は多いのではないだろうか。老後は慎ましく、波風を立てず、静かに子や孫に囲まれて過ごす。そういうものだと言う思い込みはないだろうか。
人とは体力がない。よぼよぼで、動くのもしゃべるのも億劫なもの。だから皆が支えてあげるのだ。と。

もし、65歳以上を老人と定義するならば、今の日本ではアラカン(アラウンド還暦)ぐらいではまだまだ体力も有り余っている人も多い。入れ歯不要の人もいる。旅行もバンバン行く。確かに最盛期に比べれば体力が落ちているかもしれない。皺も増えたかもしれない。だが、日常生活を送る上では問題なく、オシャレを楽しんでいる人も増えた。

 

現代日本を舞台にした漫画の『傘寿まり子』

主人公のまり子は、驚くなかれ、80歳なのである。

傘寿まり子(1) (BE・LOVEコミックス)

傘寿まり子(1) (BE・LOVEコミックス)

 
傘寿まり子(2) (BE・LOVEコミックス)

傘寿まり子(2) (BE・LOVEコミックス)

 

 

主人公のまり子は現役の小説家。
しかし体力も衰え、最近はエッセイの連載一本だけ。それでも書き続けるだけの体力もあり、介護も不要である。しかし周りは彼女を確実に年寄りとして扱う。
第一話の終盤、自分を抜きに自宅の立て替え話が進んでいるのを知り、まり子は家を出る。徘徊ではない。明確な意志を持って、終の住処と思っていた家と訣別するのだ。
だが、年金と連載による収入があっても、不動産屋では保証人をつけろの一言で一蹴されてしまう。一人暮らしのための、アパート一室すら借りれなかったのだ。金はあってもホテル暮らしをするほどは持ち合わせていないまり子は、担当編集者との電話で存在を知ったネットカフェに入った。

家を離れ、ネカフェで生活するまり子は、飼い主を亡くして声を出せなくなった猫・クロを拾ったり、かつての小説家仲間だった女性の夫から同棲を申し込まれたりと、家にいただけでは遭遇しえなかった世界に触れていく。

だが、それでも周りはまり子を、そして同年代の人々を「年寄り」と呼ぶのだ。

 

まさに、アラカンも元気な今の時代だからこそ描けた話であり、同時に未だ「老人」に対する常識が昔と変わっていないことを気づかされる作品である。

 

老人の恋愛は気持ち悪い。
どうせこの先長くない。
今更成長なんてデキやしない。

主人公・まり子の前に立ちふさがる「常識の壁」。
しかし本当にそうだろうか。老人とは、本当に老いた人なのか。身も心も枯れて、萎れるのを待つだけしか許されないのだろうか。こんなにも、この世で生きている時間が伸びていっているのに? 元気なのに?

確かに80歳のまり子は、平均寿命から言えば、あと7年ほどの命だ。
だがまり子は健康なのだ。意思もハッキリしている。仮にある日突然に逝ったとしても、その日を静かに待てと画一的に言うのは横暴だ。

 

小説家としてのまり子は、貪欲だ。
恋をして文章が艶めき、漫画を読んで新たな知識を得て、ネットに触れて未知の世界へと突き進む。しかし、そんな80歳のまり子は、決して非現実的な存在には感じられない。勿論フィクションではあるのだが、こんな人いそうだよね、と思わせる。一昔前よりも、そう思わせる時代に今、私達はいる。

年寄りが変わったのならば、それより若い世代も、いや若いからこそ変化を恐れてはいけない。修正はいくらでもできる。なにせ、まだまだ生きることができるのだから。

 

常識が変わっていくのは当たり前のことなのに、当たり前だと認識できないでいる。
だが、それはちょっとした気づきで認識できる。
『傘寿まり子』は、そんな当たり前のことを教えてくれる良作だ。

 

傘寿まり子(3) (BE・LOVEコミックス)

傘寿まり子(3) (BE・LOVEコミックス)

 
傘寿まり子(4) (BE・LOVEコミックス)

傘寿まり子(4) (BE・LOVEコミックス)

 
傘寿まり子(5) (BE・LOVEコミックス)

傘寿まり子(5) (BE・LOVEコミックス)

 

 

現時点で四巻まで読了。五巻も読みたい。
まり子さん可愛いよまり子さん。あと、孫の妻・彩花が本当に良いキャラだ。